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東京地方裁判所 平成5年(ワ)11636号 判決

原告

中国技術進出口総公司西南公司

右法定代表者

于文浚

右訴訟代理人弁護士

中島敏

被告

共栄貿易株式会社

右代表者代表取締役

陳穎義

主文

一  原告を申立人、被告を被申立人とする中国国際経済貿易仲裁委員会(90)貿仲字第一一三四号事件につき、同委員会が一九九〇年五月一九日になした別紙仲裁判断のうち、金員の支払を命ずる部分について、原告が、被告に対し、強制執行することを許可する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨。

第二事案の概要及び当裁判所の判断

一本件は、原告と被告との売買契約に関し、中国国際経済貿易仲裁委員会においてなされた仲裁判断に基づき、外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約第三条により、執行判決を求めた事案である。

二原告の主張

原告は、請求原因事実として左記のとおり述べた。

1  原告は、中華人民共和国の法人であり、被告は、電線・ケーブル類の製造機械の製作及びその販売等を目的とする株式会社である。

2  原告(買主)と被告(売主)は、一九八五年一〇月二七日、中華人民共和国四川省重慶市において、蓄電池製造プラントを、代金を一億八六〇〇万円として売買する旨約した(以下「本件契約」という。)。

3  被告は、右契約に関して、右蓄電池製造プラントを引き渡さなかったため、原告は、被告を被申立人として、一九八八年一〇月七日、中国国際経済貿易仲裁委員会に仲裁を申し立てた(同委員会(90)貿仲字第一一三四号事件)。

4  姚壮、馮大同及び庄恵辰を仲裁員とする同委員会は、一九九〇年五月一九日、別紙のとおりの仲裁判断をした(以下「本件仲裁判断」という。)。

5  本件仲裁判断は終局判断であり、仲裁申立書及び仲裁判断は被告に送達され、かつ被告は右送達に基づいて、同仲裁委員会に答弁書を提出した。

三被告の反論

被告は、右請求原因事実はすべて認めると述べた他、次のとおり主張した。

1  本件契約において、原告は被告に対し、契約書締結の日から三〇日以内に代金を確実に外貨をもって支払う旨の支払保証(L/G)を開設しなければならないところ、原告はこれをしなかったから、本件契約は一九八六年二月一八日をもって、失効した。

2  本件契約は、外貨支払が不可能で、支払保証(L/G)開設の目処が立たないのに、これが開設されるかのように装ってなされた。

3  本件契約書によれば、仲裁員のうち一人は、スウェーデン国籍をもつ公民でなければならないと定められているところ、本件仲裁員は三人とも中国人であった。

4  原告は、中華人民共和国経済貿易部(中国国際経済貿易仲裁委員会の母体たる中国国際経済貿易促進委員会の上部機関)の営利窓口であるため、本件仲裁においては、判断の公正が期待できない。

5  以上のとおり、本件仲裁判断には重大な瑕疵があるから無効である。

四当裁判所の判断

1 我が国は、外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(いわゆるニューヨーク条約、以下単に「ニューヨーク条約」という。)を批准し、これに加入したが、その際、他の締約国の領域においてなされた外国仲裁判断の承認及び執行についてのみ同条約を適用する旨宣言し、一九六一年九月一八日、同条約の効力が生じたこと、また、中華人民共和国が、一九八六年一一月二七日に同条約を批准したことは、いずれも当裁判所に顕著である。したがって、本件仲裁判断については同条約第三条によりその執行判決を求めることができ、その要件は専ら同条約の定めるところによる。

2 そこで、本件においてニューヨーク条約に定める要件を検討するに、同条約第四条は、執行判決についてのいわゆる積極的要件を定めているところ、原告が当裁判所に対し、本件口頭弁論期日において、同条一項a号に定める中華人民共和国外交部領事司により認証された仲裁判断書の原本、同項b号に定める原告及び被告間の仲裁合意の定めのある契約書の原本及びそれぞれについて、同条二項に定める中華人民共和国外交部領事司により証明された翻訳文をいずれも提出した(〈書証番号略〉)から、同条所定の要件は、これを認めることができる。

3 ニューヨーク条約第五条は、被告の主張立証すべき拒否要件を定めているところ、被告の主張する事実のうち1及び2は、本件仲裁判断で示された、本件契約の内容に関する事実であって、右拒否要件に該当しないことが明らかであるから、いずれも理由がない。

また、同事実のうち3については、〈書証番号略〉によれば、仲裁委員のうち一人が、スウェーデン国籍を持つ者で構成されなければならないのは、被告(売主)の申立にかかる仲裁の場合であると解されるし(二〇条)、また4については、中華人民共和国における渉外仲裁のための常設機関として、中国国際経済貿易仲裁委員会は、経済・貿易に関しては同国における唯一の仲裁委員会であることは当裁判所に顕著であるから、原告が同国国営の公司であることのみをもって公正を欠くとはいえず、結局いずれも前記拒否要件には該当しない。

第三まとめ

以上から、原告の請求は理由があるので認容し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤康 裁判官佐藤嘉彦 裁判官竹内努)

別紙仲裁判断

1、被申立人は申立人に対して、違約によってもたらされた差額の損失金一、七〇〇萬日本円を賠償しなければならない。あるいは執行時のレートによる米ドルを支払うこと。

2、被申立人は申立人に対して、実際に生じた損失すなわち、預金と貸付金の利子差額二萬四、八一一米ドル七六セントを賠償しなければならない。

3、上記二項目の所要金額は、いずれも一九九〇年七月三〇日以前に支払わなければならない。期限が経過した場合は支払日まで利子を追加すること。

4、本事件の仲裁料金九、三六五中国元は全部被申立人の負担とする。申立人が前払いした判決手続料四、六七五中国元は上記金額と併せて支払わなければならない。残額四、六七五中国元(日本円換算一五萬五、六三二円)は被申立人が一九九〇年七月一五日以前に当仲裁委員会へ送金しなければならない。

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